
戸田 国良
愛知豊川に海苔の名店あり。感謝の気持ちを海苔に込めて地域社会に貢献
株式会社 戸田理平商店
愛知県豊川市、愛知御津(あいちみと)駅から徒歩8分。創業70年の戸田理平商店はここ豊川で伝統的な海苔の味を守り続けている。
香典返しや法人向けギフト商材を軸に、最近では数々の地域イベントや展示会にも積極的に出店。3年前に5代目若旦那を経営陣に迎え、新しい切り口での『青混ぜ海苔』の商品化など、海苔屋業界に真新しい旋風を巻き起こそうとしている。
HP:http://todanori.main.jp/電話番号:0533-76-3078
〒442-0845
愛知県豊川市為当町椎木151


気温37度。その日の愛知県は夏真っ盛りの雲ひとつない快晴、どこまで行っても空が青かった。
真夏のギラギラとした太陽が肌をジリジリと焼く中、私は胸を躍らせながら今日の取材先へと向かった。
今日は私の大好きな「海苔(のり)」の話が聞ける。
愛知県豊川市にある愛知御津(あいちみと)駅から徒歩8分、株式会社 戸田理平商店は大きな交差点に面した非常に立地の良い場所にたたずんでいる。
戸田理平商店の門をくぐると戸田取締役が満面の笑みで出迎えてくれた。
カジュアルスーツとポップな白シャツをさらりと着こなし、優しさとスマートな雰囲気を醸し出している。
「では早速案内しますね!」
戸田取締役は、普段なかなか見る事ができない海苔の加工場へと私を案内して下さった。
加工場へ入ると私はすぐに海苔の芳ばしい香りに包まれた。どこか懐かしい夏の海岸線のような匂いだ。
戸田取締役は海苔がどのような工程を経て加工されるのか、実際に普段稼働している機械を前にしながら詳しく説明して下さった。
「取材の前に体験してもらいたいことがあるんです」
そう言うと、戸田取締役は海苔の入った5つのタッパーを私の目の前に並ベ、そして食べ比べてみるように勧めて下さった。
香り・旨味・塩味・苦味、この4つの絶妙なバランスで口の中に広がる「海苔」の世界は大きく変化する。これが海苔の奥深さだ。
取材前にすでに驚いている私を、戸田取締役は嬉しそうに見つめている。
そしていよいよ、経営者ガレリア第2回目の取材が始まる。

── それでは、取材を始めさせて頂きます。 会社の簡単な説明、御社が満たしておられる地域のニーズ等を教えて頂けますか?
戸田理平商店は創業70年です。ここ豊川で海苔一筋でやっております。
ウチは海苔屋ですが「海苔屋」といっても色々ありまして海苔を実際に生産している訳ではありません。
ウチでやっているのは海苔の加工です。
つまり漁師さんが生産した海苔を漁連(漁業協同組合の連合会)を通して仕入れ、それを焼いたり、味を付けたり、カットしたり、包装したりしています。
そのようにして丁寧に加工した海苔を香典返しやギフトを扱う法人に卸したり、お寿司屋さんに卸したりしています。一般消費者の方への小売もしています。
さらに、地元企業様のお中元やお歳暮といった大切な挨拶の際にもウチの商品は「贈り物」としてご利用頂いております。
そして最後に、ウチは海苔の加工屋としての側面も持っております。
つまり、加工の設備を持っていない他の海苔屋さんから加工の部分を任せてもらい、加工賃を頂くといった請負業もしている訳です。
以上のように、戸田理平商店は幅広い形で地域のみなさま、特に中小企業や同業の海苔屋さんたちのニーズに応えています。
── 他の海苔屋さんのために加工もされているのは興味深いですね。ちなみに、特別な設備をお持ちであることの他に御社にしかない特徴としては何がありますか?
海苔の味付けに使うタレは、戸田理平商店に代々伝わる「秘伝のタレ」を使っています。
── おお、秘伝のタレですか!
はい。さらに昔から伝わる伝統を守ることに加えて、積極的に新しい事にもチャレンジするように心がけております。
海苔屋業界は昔からその事業形態やなす事がほとんど決まっているため、何か新しいことを始めること自体がそもそも難しくなっているのが現状です。
しかし、戸田理平商店は常に新しいチャレンジに積極的に取り組むようにしています。
そもそも、海苔屋業界では後継者問題が深刻な問題となっています。
その中にあって、自分は30代の後継者としてまだまだ駆け出したばかりですし、これから出来る事は沢山あるはずだと考えています。
── 伝統と革新の融合ですね。ちなみに、戸田理平商店の創業のキッカケになったのは何ですか?
創業は1946年(昭和21年)です。
キッカケは明治33年生まれの僕のひいお爺さん戸田理平(とだ りへい)が、若い頃に海苔屋で修行をしたことにまで遡ります。
僕のひいお爺さんはそこで海苔職人としての経験やノウハウを積みました。
僕のひいお爺さんは戦争のために自分が元々いた場所からここ豊川へ疎開する事になり、戦後にそのまま豊川に留まって海苔屋の仕事を創業したわけです。
余談になりますが、ここ豊川の辺りは昔から海苔の名産地です。なので長い歴史のある海苔屋さんが既に多く存在しています。
創業50年で「新参者」と言われるくらいですので、相当の歴史ある老舗の海苔屋さんたちがしのぎを削っている地域だと言えます。
ここまでひしめき合ってるのは日本全国を見ても結構珍しいと思いますよ(笑)
── 豊川はそんなに凄い場所だったんですね。そう言えば、戸田理平商店の従業員はどれほどいらっしゃいますか?
ウチは一族で経営をしていますので、今は一族4名と他にはパートさん2名の計6名ですね。
── 一族総出で事業にあたっているんですね。では、今まで御社に起こった印象的な出来事を教えて頂けますか?
僕が今ここにいる理由にもなるのですが、2011年に3代目社長である僕の親父がガンで亡くなりました。
家業を継ぐことに関して親父は前々から「家業を継いで欲しいとは思っていない。好きなように生きなさい」と言っていました。
親父自身も海苔屋という仕事の未来が明るいものではないと考えていたようです。
親父のその言葉の通り僕は好きなように生きていましたので、工業大学を卒業後は情報系の大学院へ進み、IT系の商社に勤めていました。
その商社では、企業向けにパッケージされたソフトウェアを提案し、特定の課題を解決していくような仕事をやっていました。
凄くいい会社でしたのでそのまま勤めていても人生安泰だったはずです。しかし「戸田理平商店がなくなってしまうような事はあって欲しくない」という強い想いが僕の心の奥にずっとありました。
それで、親父の死をきっかけとし 2015年1月1日付けで戸田理平商店に舞い戻ってきました。
今は4代目として僕の母親が社長をやってくれています。3代目の親父に連れ添ってこの事業を長いことやってきてくれました。
ただ最近の経営は中々難しいこともあり、早く僕が事業を継いで、それで母親の肩の荷を下ろしてあげたいなと思っている次第です。
── 凄い決断力ですね。何よりも戸田理平商店を強く想う気持ちが伝わってきます。それでは、戸田理平商店に戻ってからの3年間で特に印象に残っている事はありますか?
ウチは元々、一般のお客様に向けての「小売」という分野にあまり力を入れておらず、法人向けの卸売を中心として事業展開をしておりました。
しかし、私が事業に積極的に関わるようになってからは、もっと地元の方々にウチの海苔を食べて貰いたいと思うようになりました。
それで毎月1回以上はイベントに出店するという方針を掲げ、今に至るまでその目標を実行し続けています。
ありがたいことに、先ほど体験して頂いた「海苔の食べ比べ」などを含めた試食販売を実施したところ早々に根強いファンがつくようになりました。
ほぼ毎月出店している『しんしろ軽トラ市』というイベントでは3ヶ月に1度出店する位置が変わるのですが、わざわざウチの海苔を探し求めて来てくださるお客様が増えていった事は物凄く嬉しかったですね。
「戸田さん!今月はここに居たのね!探したわよー!」と、笑顔でウチの海苔を購入いただいているお客様の顔を見ると、本当に嬉しい気持ちになります。
ウチの商品の実力というか商品力というか、それがお客様にも確実に届いているんだという事も確認でき自信にも繋がりました。
── それは嬉しい限りですね。お父様の跡を継ぐに当たって何か苦労された事はありましたか?
そうですね。親父からの直接の引き継ぎが無かったので、この点は苦労しました。
僕が戻った時には母親が父親の跡を引き継いで事業をやってくれていました。なので、最初の頃はそれを見様見真似でやるしかありませんでした。
また、2代目である僕の大叔父(祖父の弟)が会長として会社に戻ってきてくれているので「秘伝のタレ」の作り方など、事業に関わる仕事を直接教えて頂いています。
── 2代目が5代目へとバトンを繋いでいるわけですね。3年間の中で一番驚いた事は何かありましたか?
驚いた事は特にありませんね。
僕自身、何でも「そうなんだ」と受け入れていくタイプなので(笑)
── 吸収がとても速いという事ですね(笑)
驚いた事とは少し違いますが、作業場にエアコンを新しく設置して「職場環境」を改善するなど、新しい取り組みや業務改善は積極的に行なっています。
先ほどお話した地域イベントなどの出店系とは違う、例えば業界ごとの展示会にも積極的に出向いておりますし、異業種間の交流会などにも積極的に参加し人脈を広げる努力もしています。
商品開発に関して言うと『青混ぜ海苔』を商品化することができました。

── 『青混ぜ海苔』ですか。
はい。
2代目、そして4代目も青混ぜ海苔については「苦くてあまり美味しくない」という意見があったようです。
というのも、昔は「黒海苔と青海苔が混ざってしまっている」というネガティブなイメージが強く、そのネガティブなイメージに引っ張られて価値が理解されづらいという時代背景がありました。
しかし現代においてはむしろ「黒海苔と青海苔の絶妙なバランス」が見直され、一般顧客にも受けるようになって価値が上がっているんです。
僕も実際に食べてみましたが、その時の感想は「これは有りだな」でした。それで、自分で仕入れから行なって商品化しました。
さらに改善したのが「キズ海苔」や「訳あり海苔」のポジショニングです。
加工する工程の中で破れたり傷が付いてしまった海苔が「キズ海苔」や「訳あり海苔」になるわけですが、今まではそれらを積極的に提供することはありませんでした。
しかし、それらは品質的には全く問題はありません。それで、「キズ海苔」や「訳あり海苔」をもっと安定的に仕入れて積極的に提供するようにしました。
このような海苔は、値段を低く抑えることができるので主婦の方々に大変人気があります。
また、最近では特に「パッケージ」にもこだわるようにしています。お土産として先ほどお渡ししたものも、実は今年作ったばかりの新作なんです。

── そうなんですか!これ可愛いですよね!
これは法人向けのノベルティ(記念品)も想定しておりまして、お客様法人とその顧客との「ご縁を糊(のり)付け」という願いも込めたものとなっています。
メッセージカードも差し込めるようになっておりますので、贈る相手に日頃の感謝の気持ちを伝えることもできます。
おかげさまで、とてもご好評を頂いています。
── それではそろそろ後半パートへ移行させて頂きたいと思います。未来の若者たちのために会社を経営していく上でのコツや重要なポイントを教えて下さい。
会社経営に関しては僕もまだまだ勉強中の身ですので、定期的に「中小企業家同友会」という場で経営を学んでいます。
そこで学んでいく過程を通じて、事業経営において凄く大事だと感じるようになったのは「理念・ビジョン」です。
自分の魂を込めて「何を目指しているのか」を明確にする事が重要だと思いますね。
向かう場所が分からないなら自分自身も見失うし従業員だってついてこない。
結果、本来のゴールを見失って目先の利益ばかりを追い求めてしまう。なにが本当のゴールなのか分からなくなってしまうわけです。
従業員を多く抱えている企業であればあるほど、働いている方々を大切にしていかないと良い会社として成り立ちません。
社長や従業員と言っても単純に役割が違うだけでみんな対等な人間、同じ理念や夢を達成するために働くパートナーです。
お互いに尊重し合い、お互いに高め合う関係を築いていく。そして、みんなが一丸となって会社の掲げる夢を実現するために自発的に行動できるようになれば、その会社は非常に強いと思います。
夢や目標を大きく掲げて地域に貢献していく精神、世のため人のためという基本的だけどとても重要なこの精神を経営者が忘れなければ、従業員もお客様も共感して応えてくれると僕は信じています。
役割や立場を超えて皆が同じ場所を目指すためにも「理念・ビジョン」は非常に重要なポイントになると思いますね。

── とても高尚な次元で物事を考えておられるんですね。非常に勉強になります。では、これから起業しようとする若者に対して絶対やっておくべきだと思う事はありますか?
そうですね、今自分ができているかは分かりませんが「ボランティア活動」の経験はとても役に立つと思います。
大きな企業であっても小さな企業であっても、そもそも社会貢献に繋がる事をやっていかなければそれは「良い企業」にはならないと思うんです。
ボランティア活動を通じて誰かの役に立つ実感、地域や社会に対して貢献するという実感を学ぶことは非常に価値がある。
たとえお金にならなくても、無償で人や社会のために働いた経験で得ることができた人脈や経験は、必ずその後の人生で自分を支えてくれるようになります。
僕も地元のお祭りや地域のイベントを盛り上げるお手伝いを通して地域貢献をさせて頂いています。
近年の例を挙げますと、さびれてしまっていた地元のお祭りを同級生たちと共に「盛り上げて復活させよう!」と新しい行事も自分たちで考えました。
このように、徐々にではありますが自分たちの地元に活気が戻るようにと今の自分にできることをしています。
── 社会貢献こそが企業の真髄。素晴らしいお話をありがとうございます。それでは逆に、絶対にやってはいけないことは何でしょうか?
嘘をつく事ですね。
日本における商売の形においては特に顕著だと思いますが、商売とは「信用・信頼を積み上げていくもの」だと思います。
なので、口先ばかりとか、嘘でもなんでもっていうのはやらない方がいいと思います。
── 基本がとても大切ということですね。それでは次の質問に移らせて頂きますが、会社経営を「一言」で表現するなら?
「社会貢献」ですかね。
社会に貢献している企業こそが残っていく、日本はそうじゃないといけないと思っています。
── ズバリですね。非常に勉強になります。それでは少し哲学的な質問になりますが、人生における「成功・幸せ」とは具体的に何でしょうか?
「成功」という言葉ってちょっと難しいんですよね。
「成功」や「幸せ」については、家業に入ってから色々と考える事が多いです。
ただ今思うのは「夢や目標など、心から向かいたい場所がある事」そして「感謝の気持ち」この二つが幸せに繋がっているのではないかと考えています。
僕の今の夢は、一族がいないと回らない現在の戸田理平商店を自分たちが居なくてもずっと続く企業にする事です。
そのためにはもっと多くの人を雇えるような仕事をしていきたいし、従業員が自らやりがいをもって、何よりも夢をもって働けるような環境を作っていきたい。
一人一人が主体的に「こうしたい!」という熱い想いをもって動ける会社になれば、自然と後継者も育っていくのではないかと思っています。
例えば、今は全ての従業員が工場へ出て作業をしていますが、この状態では誰か一人が抜けてしまうと仕事全体が回らなくなってしまう。
これではダメで、誰かが離れてもしっかり回り続ける、むしろ勝手にどんどん成長していく企業にすることが重要です。僕は今、この夢を実現させるために頑張っています。
最近ではありがたいことに妻も来てくれました。夫婦そろって一緒に現場で働いています。とても幸せです。
プライベートでも仕事でもパートナーとして同じ方向を向いてやっている。これは何ものにも代えがたい、本当に幸せな事だと感じています。
そして「感謝の気持ち」ですね。
最近のメディアで報じられている人々を見ていると、自分が置かれている現状に対して不満ばかりを持っている人が非常に多いように感じます。
例えば、「給料が安い」とか「自由な時間が満足に手に入らない」とか、仮に小さな不満であってもこのような不平不満を漏らす人が後を絶ちません。
しかし少し考えれば視点だって変わるのではないでしょうか。
例えば、「食べる物すら満足に確保できない」そんな時代だって実際ありましたし、現代においても、明日が来るかどうかも分からない紛争の多い国や地域だってあります。
そんな中で、比較的平和なこの日本に生まれた事がどれだけ幸運な事か。
この豊かな時代に生まれ、先人たちが積み上げてきた日本という恵まれた環境で生活できる事そのものに感謝することだってできるはずです。
それだけで「幸せ指数」がとても高く満ち足りた気持ちで日々を生きることができるはず。だから、感謝の気持ちを意識していない人たちは「凄くもったいない」と僕は思います。
身近にある「恩」に感謝できる事が「幸せ」に繋がり、その「恩返し」を次世代にしていく。
これがやりがいのある「幸せな人生の鍵」になるんじゃないかなと、僕は考えています。

── なるほど。このようなお話を聞くと「自分は大丈夫だろうか」と自問自答させられます。では、成功する人の特徴や成功する秘訣についてはどのようにお考えでしょうか?
自分の欲求よりも「世のため人のために頑張れる人」が本当の意味での成功者になるのではないでしょうか。
自分の欲求ばかりを追い求めてしまう人は目先の成功者で、本来その先に繋がっている本当の成功には中々たどり着けない。
それでは空しいなと僕は感じてしまいます。
お金や地位や名誉といったものばかり追いかけるのではなく「困っている人々を助けよう」とか「日本の社会問題をなんとしても解決してやろう」という、情熱と大義を持って突き進める人が成功すると思います。
成功する秘訣については「決して諦めない事」ですね。
どんなに失敗しても、どんなに挫折を繰り返しても自分が成すまで絶対に諦めない人は必ず成功する思います。
── では逆に、失敗する人の特徴はいかがでしょうか?
人を尊重しない人ですね。
人を尊重していなければ、その人は平気で嘘をつくかもしれない。あるいは、従業員を駒のように使うかもしれない。取引先だって単なる金づるとして見るかもしれない。
このような所に失敗する人の特徴が現れるように思います。
── 最近、元気のない若者たちが問題になっているようですが、元気のない若者たちには何が足りないと思いますか?
夢、そして目標でしょうね。
実は元気のない若者たちを育てている親の方々が、夢や目標を持っていない可能性が高かったりするんです。
僕もこの点については「いつからそうなってしまったんだろう・・」と考える事があります。
人生を懸けてまで実現させたい夢や目標を持っている人がもっと増えれば、起業する人も増えるだろうし、元気な若者たちだって増えると思うんです。
でも、そのための「環境」が今の日本にはない。
教育環境もすごくマズいと思います。政治経済を含めた日本社会の環境全体が悪い方向へと傾いていると思います。
不平不満ばかりもった親の元で育った子供は当然、不平不満を持つことが当たり前として育ってしまう。
夢や目標の持てなくなっている環境そのものが大きな問題だと思います。
── 今の日本社会でこれは深刻だと思う問題点を1つ挙げて下さい。どうすればその問題を改善できると思いますか?
先ほどの話にも少し繋がりますが「少子化問題」は非常に深刻な問題だと思います。
今のまま少子化が続くと日本という国家を守り切れるかどうかすら危うくなるのではと危惧しています。
もちろん、この問題に関しては既に多くの人たちがぼんやりとした危機感を持ってはいるでしょう。でも、ぼんやりとした危機感だけでは本気で取り組むことは難しい。
そもそも、少子化問題による国家的ダメージは今日や明日に表面化する話ではなくて、数十年後の未来に顕著になっている問題です。
今の中高年世代はひょっとしたらその頃にはもう居ないかもしれない。
そうなると、日本社会のリーダーシップを取っている今の中高年世代にとってそもそも本気で取り組みづらいテーマになってしまう。
今の若者にとっても同じです。「今が良ければとそれで良い」と思っていると危機感を感じづらいでしょうし、問題を直視することができずにいる。
つまり、少子化問題は中高年世代にとっても若者たちにとっても「非常に気づきにくい問題」なんです。
とはいえ、出生率がいきなりポーンと跳ね上がるわけもないので問題の大枠はもう見えています。人口分布から統計的な予測も出ていて、ほぼ間違いなく起こる問題として明確化されています。
ただ、この事実はそこまで公にされない。
年金問題や社会保険の問題まではメディアも切り込んでいますが、もっと多くの問題が潜んでいる「少子化問題」については十分な報道がされずにいる。
この現状が続くのは非常にマズいと思いますね。
私が考える改善策としては、例えば3人以上の子供を産みやすくする政策をとることや、子供たちを育てやすい環境をもっともっと充実させる事が挙げられると思います。
他の国では子供が3人、4人と増えれば増えるほど税制の控除が受けられたり、月々一定額が国から支給されたりと少子化対策がしっかりと進められているようです。
このような制度が日本にもあれば、お財布の面で子供を産むことが難しいと感じている夫婦にとっても子育てのハードルは下がるでしょう。
もちろん国だけでなく企業にもできることはあると思います。
子供が沢山いる従業員にはその分自社の製品を安く買えるようにするなど、少子化を食い止めるためにできることは国だけでなく企業にだってまだまだ沢山あるはずです。
まだ実現してはいませんが、戸田理平商店でも子育てを応援していくような取り組みを積極的に行なっていこうと考えています。
── 国だけでなく企業もしっかり対策を練っていく必要があるようですね。では、10年後の日本社会の様子をズバリ予想して頂けますか。例えば、需要が拡大している産業や衰退している産業などありますでしょうか?
これ凄く難しいですね。
今ですら10年前と比べれば大きな技術的な進歩はあったわけですが、毎日を同じように過ごしていると段階的な変化って気づきにくいと思います。
それでも色々な本を読んだり色々な人と話す中での気づきを元に、何か将来の大きな変化があるとすれば、小売店がどんどんコンビニのようになっていくんじゃないかなと思っています。
例えば、コンビニとドラッグストアって区別がどんどん無くなって来ていて、いずれどの小売店に行っても同じようなものが買える時代になるのではと思います。
最近では本屋さんでさえも服や雑貨や食べ物が置かれ始めているようです。
この流れがどんどん加速していくと、大型ショッピングモールが立ち並ぶことはもちろんですが、コンビニやドラッグストアのような小さなチェーン店の中でも取り扱う商品はどんどん増えていくと思います。
逆に、専門店はそういった大型ショッピングモールや各チェーン店に負けない差別化をしていかないと経営自体が難しくなる。
大手には真似できない特殊性や独自性を出していく企業が、将来にわたって長く生き残れる企業ではないかなと思います。
── それでは最後の質問になりますが、未来を背負う若者たちのために『人生を攻略するコツ』や『座右の銘』を具体的に教えて頂けないでしょうか?
人生を攻略するコツは先述の幸せの定義でも話したように「感謝の気持ち」を持つことですね。
ご先祖様たちがいて、私たちに至るまで全ての命をつなげて下さった。だから今こうして自分たちがここにいるのだという「感謝の気持ち」を持つこと。
そして、それに対して今度は自分たちで「恩返し」をしていく事、これが本当に大事だと思います。
このことに関しては今すぐに理解できなくてもいいので、まずは身近な人に「ありがとう」という感謝の言葉をきちんと言う事から始めて欲しいと思います。
その具体的な行動の積み重ねが「次のありがとう」を呼びます。人から必要とされる事、人から感謝される事が「人生を攻略するコツ」だと思いますよ。
僕の座右の銘に関しては『鶏口牛後』という四文字熟語があります。
「鶏のくちばしになれ。牛の尻尾にはなるな」という意味でして、仕事に置き換えると「大企業の平社員じゃなくて中小企業のトップになれ」という事です。
僕が以前勤めていたIT系商社は社員が1000人以上いて僕はその中の平社員に過ぎませんでした。
でも今は中手企業のトップとなるために後継の準備をしています。
「鶏のくちばしになれ。牛の尻尾にはなるな」
この言葉はこれから起業を志す若者たちにとって、素晴らしいはなむけの言葉になるのではと思います。
── 本日は素晴らしいお話の数々、本当にありがとうございました!

戸田 国良(とだ くによし)
1982年11月5日生まれ。IT系商社「アシスト」に入社。2011年父の他界をきっかけに海苔屋という家業と向き合い、2015年1月より家業を継ぐために戸田理平商店に入る。2017年11月、取締役に就任。若旦那として新しい事にチャレンジしている。
